■ Miserere：Gaetano Donizetti
代表作『愛の妙薬』で知られるガエタノ・ドニゼッティは1797年に北イタリアのベルガモで生まれ1848年同地で死去したベル・カント・オペラの作曲家である。同時代の作曲家にはべリーニ、ロッシーニがおり、より我々になじみの深い音楽家でいえば、あのシューベルトと同年に生まれ、ショパンより1年程早く世を去った人ということになる。彼は速筆の多作家で、生涯に70を上回るオペラの他、オラトリオ、カンタータ、数々の宗教曲等を書いたとされているが、現在上演されるのは数曲のオペラだけである。その意味で、極めて珍しいこのミゼレーレ＜あわれみ給え＞は、1837年にシステイナ礼拝堂の為に作曲され、1842年に教皇グレゴリー16世に献呈され、更に（！）翌年オーストリア皇帝の宮廷礼拝堂のために改訂されたものである。この作品は、円熟期のベル・カント・オペラ作曲家らしい耳あたりのよい甘美なメロディを持つ一方で、低弦（ヴィオラ、チェロ、コントラバス）とオルガンに限定した管弦楽法を特徴としており、少人数の男声の音色との組み合わせにより、神聖なテーマにふさわしい魅力的な効果を得ている。
（坂川典正）